家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.7 「久米さんの監理の中で工事は進む。」

2004.10.20

 

  2004年4月5日、地鎮祭を挙行して工事は着工しました。

 竣工期限は6ヶ月半後の10月28日です。私はかねてから家づくりの工事の状況をつぶさに見たいと思っていたので、毎日の見学を希望したところS工務店の社長から快諾をいただきヘルメットまで貸してくれたので、現場通いが始まりました。

 

 最初は職人さんたちの迷惑そうな目が気になりましたが、そんなことをいちいち気にしてはいられません。ただ、作業の迷惑にならないように、自分が怪我をして現場に迷惑をかけないようにだけは充分注意を払いました。

 着工の翌日から基礎工事が始まりました。立派な本当の栗石を(最近は砕石がほとんどらしい)しっかりと転圧し、鉄筋、アンカーボルト、型枠を組んでいきます。近所に住むお年寄りが足を止めて「こんな立派な基礎は見たことがない」と褒めてくれました。

 

 久米さんの監理は要所に厳しく、基礎のコンクリート打設の時にはコンクリートプラントから現場打設終了までの所要時間が2時間を超えてはならないという規定から、現場に待機中の生コン車を3台も帰らせたことがありました。こういう果断な処置はなかなか出来ないものです。「これくらいは許されていいだろう」という現場の慣行が横行して、ややもすると品質確保の姿勢がだんだん緩んできます。また、工務店直属の建築士による監理では身内への遠慮が働いて判断や処置が甘くなる恐れがあると思います。だから、設計事務所のしっかりした監理が実行されると施主は大いに安心できるわけです。

      

 基礎工事は5月中旬に終了しました。コンクリートの養生期間中にS工務店社長のご好意で、久米さんと共に和歌山の木材プレカット工場を見学しました。

 柱や梁などの木を設計図の各部材毎の寸法に切断し、継ぎ手部分は溝や差込(仕口とかホゾと呼ばれている)を加工するものです。作業はすべてコンピュター制御された機械加工でその製作精度は1ミリメートル以内と聞き、「建築の分野でも機械加工はここまで来たか」の感を強くしました。また、S工務店社長は木に格別のこだわりを持つ方で、家の真ん中の柱を12センチ角から24センチ角に(何と断面積は4倍)好意でかえて下さいました。来年の固定資産税の査定が心配なほど、立派な大黒柱が出来そうです。

 

 基礎工事の次はいよいよ上棟に入って行きます。7人の大工さんが3日かけて土台、柱、梁などを一気に組み上げました。5月26日の夕方、関係者が15人ほど集まって上棟式を行ないました。S工務店社長の祝詞、珍しい祝い歌があり、皆、床に座ってお酒や食事をしながら楽しいひと時を過ごしました。

 工事はこのあと間柱、窓台、屋根まわり、外壁まわりの木工事を経て、6月9日指定認定機関の中間検査に無事合格して工事の前半を無事終えました。

 

 さて、今回の家づくりの資金計画は今住んでいる家を売らないと成立しません。工事が無事着工したのを見届けて、築後35年の古家付き土地を10月末明け渡しという条件で売りに出しました。2件ほどの客が下見に来ましたが、すぐに1件の客が買いたいと言ってきました。しかも解体撤去するのでなく、5年でも10年でも住めるだけ住んでくれるというのですから、永く住んだ私たちにはこの上なく嬉しい話です。5月31日に売買契約を締結しました。建築中の家の竣工、引渡しが10月28日なので引越しは29日、家の明け渡しと決済は11月1日としました。これで家づくりプロジェクトの大きな問題はすべて解決したことになります。本当にヤレヤレと思いました。

     

 工事ですが、次は設備工事です。水道、下水、ガス、電気、通信、パネルヒーター、エアコンの配管やケーブルを床下、壁、天井に仕込まなければなりません。ここで工程を大きくロスしました。原因は手直し工事が多かったためです。しかも設備業者も現場を掛け持ちにしているため、なかなか手直しに来てくれず、いたずらに時間を浪費していくのには全く閉口しました。

 今回の現場を見ていて感じたことは

   大工さんの技量はしっかりしています。特にH棟梁の仕事ぶりは丁寧です。他の大工さんもそれぞれ特技があり、うまくチームワークを図って仕事を進めています。

   監督さんは、厳しい言い方になりますが、自分の目で品質が守られているか、あまりチェックしていないように見受けました。特に設備工事は協力業者まかせです。しかし、監督さんの業務は多岐にわたっており、それらをこなしていくのは実に大変だなと感じました。

   毎週火曜日に現場では定例会議が開かれ、工事のやり方や、品質の確保などについて打ち合わせが行なわれます。そこでの久米さんの指示や要求に対する監督さんの反応が鈍く、対応が遅れることによって工程全体が遅延していきます。

 素人の私の目では所詮、船の小さな窓から大海を見るようなものですが、工務店が抱える問題を垣間見たような気がします。

 

 そのような状況の中で着工から4ヶ月後の7月末には約1ヶ月の工程遅延があったので、関係者が集まっていただき、私からも見直し工程と工期の厳守をお願いしました。しかし、8月、9月と工事の進捗は、またもや見直し工程よりジワジワと遅延し出し、状況はあまり改善されていないように見受けられました。私は、工事の品質は久米さんが工事監理をしっかりやってくれているし、大工の技能は水準以上なので安心して見ていられます。久米さんからは監理報告が2週間毎にあり、定例会議の報告も送られてきます。また、私もほとんど毎日現場を覗くので工事の状況は手に取るように良く分かります。

 

 ただ、唯一心配は工期の厳守だけです。10月に入り現場の人の目の色が変わってきました。工事は必死の追い込み中です。沢山の職人さんが現場に入り活況を呈しています。こうなる前にもっと頑張っていればと思いますが、どんな工事でも最後は火事場の底力の状況になるのでしょうか。今年は台風がヤケに多いし、予期せぬ事故やトラブルが無いことを祈るばかりです。




 

久米から一言… 


自分自身に完璧を求めることができないように、たくさんの人たちが集まって進む工事も、機械ではない人の作業なのですから、全て満点という現場はまずありません。

大手ゼネコンの工事でさえ、新聞で騒がれるような大問題が起きるのですから、それを考えれば、住宅規模の現場に100点を求めるのは殆ど無理ということがおわかりでしょう。

 

そういう中で、このAさんの現場の工務店さんは本当によくやってくれました。

 

たしかに、Aさんも書かれているように、設備施工の工程の段階で、いくつか手直しをせざるをえないことがおきました。施工図も起こして、何度も打合せをしていたのにもかかわらずそうなったのは、今から考えると連絡の悪さが一番の原因だったように思います。

 

でも、建物は結果的にはとてもよい施工になったと思っています。

大工さん達も皆さん本当に上手い大工さん達で、きめの細かい作業も積極的にしてくださいました。

Aさんが言われるように、工程は少し狂いましたが、色々あっても、最終的には、契約から一日も遅れることもなくお引越しが予定通りできるのですから、立派なものです。わたしは感謝したいです。 (但し、外構は残りましたが。)

 

Aさんのお話を読むとお分かりのように、現場の「要」は監督です。

技術的にもしっかりとした知識があり、仕事もきちんとしている監督さんがその工務店にいるかどうか、これはとても大切なことですが、残念ながらこればっかりは会ってみても殆ど分からないのが実情です。 (良い監督さんの情報は、良い工務店さん(会社)の情報とともに大切にしましょう)

 

さて、施主さんにはこのようにお話して、現場を暖かく見守っていただくように御願いいたしますが、(施主さんの仕事は現場の人たちを応援することです!) わたしの仕事は100点を求めるのが「基本」です。(笑) 100を求めても80しかできないのが人の仕事。

初めから80しか求めなければ、60の結果となるのは、品質管理から考えても当然のことですから、久米の文句が多いのは業務に忠実とお考えいただいて、工務店の皆々様、何卒ご勘弁ください…  (って、勘弁してくださるでしょうか…)

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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