家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.2 「家づくりの世界へ迷い込む

2004.05.20

 2000年の11月、北海道へ仕事で出張の機会があり、その帰りに北海道の地場ハウスメーカー「木の城たいせつ」社の本社・工場(夕張郡栗山町)に立ち寄り、見学しました。これは以前に同社の創業者・オーナーである山口 昭氏の著書「もったいない - 常識への謀反」(ダイヤモンド社、残念ながら既に絶版になっています)を読んでいて興味を持ち、機会があったら是非見学したいと思っていました。 同社の造る住宅の特徴は北海道の冬の厳しい寒さ、大量降雪、湿気に耐える「頑丈100年の家」というもので、具体的にはスラブ一体型半地下式基礎、無落雪屋根とスノーダクト工法、5枚ガラスの3重窓と木製サッシ、一棟一基の省エネペチカ、緩やかな18階段、冬季通年施工の導入、道産材の徹底使用などです。山口オーナーにも会い、お話を聞いているうち頭をガーンと殴られたようなカルチャーショックを受けました。 これこそ飽くなき住宅革命への挑戦だと。この山口氏の取り組みは世界的にも評価され、1998年環境庁長官賞を受賞されました。

 この体験を契機として、私は家を建てる前に家づくりのことをもっと学ばねばならないと感じました。よーし、やれるだけやってみようということで、住まいづくり関係の本を片っ端しから読み始めました。最近では素人向けにいろいろ出版されていて紀伊国屋やジュンク堂などへ行けば専門のコーナーがあります。 興味を持った内容についてのキィワードとしては次のようなものがありました。

 

 阪神大震災の教訓、木造軸組み構法、耐震性、百年住宅、エコロジー、省エネルギー、地産地消、住まいの原点、住まいと健康、快適性、やすらぎ、家族の絆、温熱環境、高断熱・高気密、自然換気と計画換気、輻射暖房、内断熱と外断熱、充填断熱と外張り断熱、通気性、ペットボトル住宅、コールドショック、シックハウス、化学物質過敏症、ナミダ筍事件、壁内結露、逆転結露、ダニ・カビの繁殖、自然建材、呼吸する家、木に学ぶ、森林浴効果、バリアフリー、高齢者配慮住宅、欠陥住宅、半値八掛け、手抜き工事、代願屋、設計と監理、建築家と建てる、などなど・・・。

 手当たり次第に数十冊読んだでしょうか。内容をきちんと理解するというより目を通したのですが、論点をすべて整理するのは素人には土台無理ですので、総括的な感想で勘弁していただきますと、次のようなことを感じました。

 

1.最近になってようやく「住み手の立場に立った本当の家づくり」とは何かが問われるようになって、建築主も他人任せにするのでなく自分で模索、探求する時代になってきたこと。その背景として家庭の崩壊や家族の健康被害が大きな社会問題となっており、それが家づくりとあながち無関係ではないということを建築主が認識するようになってきたこと。

 

2.本を書いた人それぞれや立場によってその主張、内容、視点、価値観が違うこと。(建築家、工務店、ハウスメーカー、評論家、学者、建築主など)。結局それらはすべて注文者である建築主に向かって発信されているが、素人の我々はその主張の是非について判断するに足る知識や能力を持ち合わせていないので、いろいろな本を読めば読むほど迷うことになる。しかし専門家の意見を聞きつつも、最後は自分の考えや今までの生活から得た知恵などから、自分で判断していくよう努力していくしかない。

 

3.業界内の争いや競争を有利に運ぶための宣伝、営業行為を出版物に持ち込んでいるものもある。特に断熱工法論争などはフランチャイズ間で泥試合的様相を呈している感がある。この場合、我々素人は安易に一方の主張を妄信するのは危険である。公平で客観的に分析している本もあるから、それらを読んで学習したうえで自分なりに疑問点を整理しておく。その上で内見会などの現場や住宅展示場に行った方がよい。

 

4.建築主が知らないことにつけこんだ悪徳商法や手抜き工事があまりにも多い。こうしたトラブルに巻き込まれないために、又自分や家族の生活を守るためにも家づくりの勉強は必要だと思う。家は一生に一度の大きな買い物であり消耗品ではないから、車を買うのとは訳が違う。

 

 家づくりの本の話はこれで終わりますが、これによりいろいろな人の家に対する考え方や業界全体の方向性を知ることができました。

 これと並行して住宅建築工事の見学広告を見つけては工事中や工事完了後の現場を何回か見て回りました。特に構造の部分は工事中でないと見ることができません。又入居後の家庭を訪問して実際に住んでみた感想や反省点を聞きたいのですが、そういう機会を掴むことはなかなか難しいことです。

 一方、家づくりを建築という側面から理解するため、2002年に社会通信教育「二級建築士講座」を受講しました。これには5科目あり(計画、法規、構造、施工、製図)、建築というものに対する総合的理解が得られました。これは後々、設計の進む段階で大きな助けになって、やって良かったと思っています。私は建築は全くの専門外でしたが、やってみると結構面白く楽しいものでした。建築は本来、人間の生活や感覚に直に結びついているからでしょうか。

 街を歩いていても今までとは違う目で街並みを眺めることができます。あの建物はどんな設計思想で造られたのか、この建物はどういう理由でこんな形になっているのか想像をめぐらすのです。また、日本古来の寺院や有名な建築物、街並み保存地域を見て周る楽しみもできました。

 以上の私の取り組みをまとめますと、家を造る時に依頼先を決めて予算と工期だけ指定してあとはほとんどお任せが一番楽ですが、私はできるだけ自分で理解し納得して進めていく方法を選びました。もちろん会社の仕事もありその他の用事もあって毎日が忙しいのですが、これからの環境問題を考えれば3世代≒70年は使い続けられる家を造りたいのです。

 家づくりは本当に大きなエネルギーが要ります。可能な限り事前の諸計画の準備、調査、学習をしておくことがいい家づくりにつながると思います。

 

久米から一言… 


Aさんはとてもよく勉強されているので、教えていただくことも多く、私の足りない部分を助けてくださいました。 熱損失係数 < Q値 → (家全体の熱貫流量 + 換気による熱損失量)/床面積 > も、詳細に計算してくださって、恐れ入るとともに、恥じた次第です…

(Q値はその家の断熱の性能を数字で表したものといえます。建物の温熱環境のひとつの指標です。省エネにも関連する温熱環境のことは、これから徐々にお話していきたいと考えています。)  Aさん、本当にいつも有難うございます。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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