家づくり記録 Nさん

NO.3

 

3. プラン作り

 2006.07.11

 やっと土地が決まり、お金の見通しもたったところで、プランを作っていただくことになりました。

 最初に久米さんとお会いしたころは、私が大阪の会社に勤めていたため、滋賀と西宮の間をとって梅田のあたりで打ち合わせをしましょう、と話していたのですが、赤ん坊をかかえて身動きがとれなくなったので、久米さんに滋賀までご足労いただくことになりました。 メールやFAXで頻繁にやりとり、それに加えて2、3週間に一度は顔を合わせて図面の検討、設備類や材料の選定などを重ねていきました。

(久米さんはいつも図面のほか、重いカタログや資材の見本、時には模型といった、大荷物を抱えて電車で来てくださいます。)

 

 こちらからお伝えした大雑把な希望は次のとおりです。

 

○      自然素材をたくさん使った木の家にしたい。全体的には和風の家がいい。

○      夏涼しくて冬暖かく、風がよく通る家に。

○      暖房にはPSヒーターを使いたい。

○      共働きで忙しいので効率的に家事がこなせる工夫をしてほしい。

○      洗濯物干しは突然の雨に対応でき、帰宅後あわてて取り込まなくてすむように。

○      朝洗面所が混雑するので、洗面台はダブルボウルを希望。

○      子供部屋は広くなくていいが3部屋。大きな本棚を備え付けたい。

○      和室、狭くていいから書斎、坪庭のような小さな庭がほしい。

○      子供たちだけで留守番する時間が長いので防犯をしっかり考えたい。

○      キッチンは娘たちと一緒に立てる広さがほしい。 ……

 

 最初に久米さんが示してくださったプランは2案ありました。1階に主寝室と和室、浴室、2階にLDKと子供部屋2つという振り分けは共通ですが、A案は広めの中庭があり、水周りや階段、ホールがその庭に面していて開放的な感じ。 B案は、和室が離れのように玄関の外にあり、土間のアプローチがゆったりと続いています。 最初は私一人で見て、夫は夜に帰宅してから見たのですが、意見は一致していて、この離れ風のプランがとても気に入りました。 遠方の親戚や友人に遠慮なく泊まってもらえそう。 子供部屋は2つしか取れなかったので、10年後末っ子が個室を必要とするころには、成人している上の子はこの和室を使えばいい…。 決して余裕があるわけではないけど、ゆったりとした土間はなんだか豊かな気分にさせてくれます。

 

 このB案をたたき台に、A案のいいとこどりで、工夫していただいた案で、進めていくことになりました。

 和室はほかの部屋から独立しており、玄関を入ってから広い土間でつながり、トイレなどの心配もなくなりました。 土間の突き当りには小さな庭、浴室もここに面していて気持ちよくお風呂につかれそうです。 玄関は内玄関があり、娘たちの増え続ける靴や、ベビーカー、玄関周りのあれこれが収まりそうです。 朝の混雑も解消されるでしょう。 2階の子供部屋とLDKの間は室内物干し、ユーティリティーになっていて、洗濯機もここに置きます。 台所仕事をしながら洗濯、取り込んだらユーティリティーでたたむ作業もでき、無駄なく家事ができそうです。 子供部屋は間仕切り代わりに1面が大きな本棚に。最初は狭さ解消のため、ロフトを作ってそこで寝たら、と提案されましたが、娘たちが却下。 なんだか子供っぽく感じるのでしょうか。 まあ、狭いなりに工夫して使ってほしいと思います。

 

 以下、特に検討を重ねた点について触れたいと思います。

 

<キッチン>

 厨房設備や衛生機器も決めていかなくてはなりません。久米さんと一緒に大阪市内の各社ショールームを見て回りました。

 キッチンについては、それほどこだわりがあったわけでなく、高価なものにあこがれていたわけでもなかったので、使いやすければそれでよし、と思っていました。 久米さんから、トーヨーキッチンから新しく発売されたばかりの「ポルト」という商品を一押しされていました。 高品質で足が持ち上がったデザインがステキ、大きめのシンクや引き出しの収納は機能的。 なによりお値段がとても魅力的でした。 実際にショールームで実物を見て、もうこれしかない、と思ってしまい、正直ほかのキッチンはあまり目に入っていなかったのです。

 

 キッチンの配置がまず思案のしどころでした。

 南側の壁につける形が収まりもよかったのですが、せっかくなら南はやはり大きな窓を、ということで、東側になったり、いっそアイランドにしたり、とあれこれ悩みました。 結局、やはり南側に置き、吊り戸棚のような収納をあきらめて、できるだけいっぱいに窓をとることになりました。 食洗機は当初ホシザキの短時間で洗いあがるタイプを、と考えていたのに、なんとホシザキが家庭用の食洗機から撤退してしまいました。 それならやはり、食洗機のベンツといわれる(?)ミーレでしょう。機能や耐久性は国産とは格段に違うといいます。 お値段もお高いですが。

 「ポルト」は低価格に抑えられているだけに、機器類を自由に選ぶというわけにはいきませんでした。 ミーレをいれるとなると、出来上がっているキャビネットの一部分を壊して、組み込むしかありません。 せっかくの足が持ち上がったデザインもミーレの部分はふさがれてしまい見栄えはよくありません。 「ポルト」以外の商品だと、お値段の魅力はあまりなくなります。

 気に入っていた壁面ユニットは使えなくなったし、自分の中では決定していたはずの「ポルト」でしたが、ほかの選択肢も考えざるをえなくなりました。 久米さんもお付き合いするのは初めてという、厨房機器の会社Kさんで見積もりをとってみることにしました。 実はショールームめぐりのおりに、この会社にも立ち寄ってはいたものの、あまり熱心に見ていなかったのです。

 この会社では、いろいろなキッチンメーカーの部材を組み合わせ、オーダーメードのキッチンを提案してくれます。我が家の場合は、けこみの部分まで引き出しになったキャビネットはベルテクノ製、ヘアラインステンレスのカウンターとシンクは特注、キッチンパネルはナス、食洗機はもちろんミーレ…。ガスコンロはきれいな白いガラストップのリンナイ製品をネットで見つけ、これを入れたいとお願いしました。こんなに好き放題してお値段は……思わずにっこり、でした。

 キッチンの検討を始めて決まるまで結局数ヶ月かかってしまいました。 久米さんが厨房の検討には余裕をもっていてくださったのであわてることなく助かりました。 我が家のキッチンは白いシンプルなものですが、オリジナルの一点もの。 吊り戸棚がない分収納が少なくなったので、市販の収納を組み込めるカウンターとダイニングテーブルが一体となったものを久米さんにデザインしていただきました。 すべてがLDKの空間に収まったところを早く見たいです。

 

 ところがこの後、さらなるどんでん返しが起きてしまいました。 

 

 最後に若干の部材の変更があったのでそれを反映した見積もりを出してもらい、その金額で契約、ということになりました。 待っても待っても、見積もりが出ません。 たいした変更でもなかったのにおかしいな、と思っていたら、衝撃的な電話がかかってきました。

 「株主総会でキッチン事業からの撤退が決まり、提案していた商品を納めることができなくなった」!!! 

 担当者の声からもショックを受けている様子がありありで、こちらもなんと答えたらいいのかわかりません。 ああ、もうあのキッチンは、夢まぼろしと消えたのか……。 また別の業者で一からやり直しか?

 こんなときも久米さんは冷静です。後戻りも立ち止まりもせず、工務店さんに出来上がっている図面を渡し、同じように(できるだけ値段も)してもらおう、ということになりました。この後の展開は現時点ではわかりません。 またの機会に続きを報告させていただきたいと思います。 

 

<地震対策>

 私たちの住む滋賀県南部には、琵琶湖の西岸沿いに多くの活断層が確認されており、今後30年間に大地震が起きる確率は、全国的にも高いレベルにあるといわれています。 当然家作りには地震への備えを考えねばならないのですが、久米さんに指摘していただくまで、私たちの頭の中にはその点が抜け落ちていました。 建設予定の土地は山側で地盤は安心できるものの、予算的に可能なら免震装置を採用してはどうか、というご提案でした。

 現実にはそこまでの予算は見込めなくて、基礎にいくらか揺れを吸収できるゴムのマットを使う、簡易なものに落ち着きました。 構造も、構造設計の瀧川さんにしっかりと構造計算をしていただき、耐力壁の位置や数、梁のかけ方などを綿密に練っていきます。 将来のリフォームの可能性や予算とのバランスを考えながら、品確法の住宅性能表示でいうと、耐震等級2にしてもらいました。(等級1で建築基準法はクリアできます)。 天井の高い、伸びやかな空間は、安全と安心の裏づけがあって初めて楽しめるものです。 久米さんはちょっとした変更であっても、瀧川さんに相談して構造的に問題がないかどうか確認してから進めてくださるので、とても心丈夫でした。

 

<暖房設備>

 マンション暮らしから一戸建てに移ると、「寒い」という感想をよく聞きます。私は岐阜県の山間部の生まれ、冬の気温はマイナス10度以下なんて珍しくない寒冷地でした。 なのに実家は断熱なんてぜんぜん考えていない寒い寒い家で、1日中石油ストーブを焚いていてもこたつから出るのがつらいほど。 だから絶対冬暖かい家にしたいとずっと思っていました。 もちろん、年中半そでで過ごせるほどにしたい、というわけではありません。滋賀も私たちの住むあたりは寒冷地ではありませんし。(でも久米さんはこちらに来るたびに、西宮よりかなり寒い、とおっしゃいます)

 PSヒーターは家作りを考え始めたころ、雑誌で見て、予算が許せば取り入れたいと思っていました。屋外にある熱源で温水を作り、室内に循環させる方式です。 24時間運転しても石油なら光熱費も抑えられ、穏やかな輻射熱でじんわりと家中暖かくできるそうです。 パネルは触ってもやけどをするような熱さにはなりません。 こちらも予算をにらみながら、パネルの大きさなどを考えていきます。 新しい家に入居できるのはまだ寒い季節、どんなふうに家が暖かいか、とても楽しみです。

 

久米から一言… 

 

Nさんとの打合せは、基本設計中は2週間に一度のペース、

実施設計に入ってからは3週間ほど時間をまとめていただいて行ってきました。

もたもたしている私を、Nさんは辛抱強く待っていてくださっていて、感謝いたします。

 

さて・・・今回もまたアクシデントが…(笑)

厨房の会社はとても気に入っていただけに残念ですが…致し方ありません。

でも大丈夫。 同じものを工務店さんのほうできっと造れるでしょう。

この家の土間と離れの和室のプランは、私もお気に入りです。

工事がはじまるのが楽しみです。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)