家づくり記録 Tさん

NO.7

 

 ようやく本契約の段階に近づき、金融機関との調整も進み始めることになります。
 今回の建替え計画で一番配慮したのが、実は建築そのものでは無く金策でした。
 これが確保できなければ全てがひっくり返ってしまうから。

 土地から買うのとは異なり、建て替えの場合は土地という資産自体があるために、融資の調整自体は比較的面倒が少ないと聞いていました。なのでそれを踏まえて色々な金融機関にローン相談を持って行き、一番条件のいいところを選別する、という方針で進めようと思っていました。 が、私自身に少し事情がある事もあって、あまりいい条件を提示してくれる金融機関がありませんでした。
 正直、不景気を実感しました。 途中で久米さんにグチを入れたこともありましたよね。

 

 そうして金融機関を検討しているとき、家内が「○○っていいらしいよ」と、誰ぞから噂を聞きつけてきました。 早速インターネットで調べると確かによさげ。 休日にローン相談会が予定されてて、またうまい具合にその予定日がすぐそこ。 場所も近い。 早速相談申し込み。
 当日、色々と情報を聞き取りましたが、他の金融機関と比べてこちらにとって好都合な条件が示されました。 ローン金利の支払いを一部遅らせることができるとか、利率が良いとか、そういうシステムがいくつかあったのもポイント高し。
  
 ですが、とりわけ良かったのがローン担当の人柄。 担当者は2名(後日、責任者として1名追加)でしたが、どの方も人当たりがとても良い。 相談にも親身に乗ってくれました。 それまで私の周りの金融機関の担当者は概ね横柄な方が多くて(全員じゃないですよ。単に私の“イメージだけ”の話ですので誤解無きよう。)その方たちと比べても 「この後、仮審査・本審査・融資実行とイベントが続いていっても、スムーズにいけそうだな」 と感じたのは、この金融機関に本申し込みをする大きな動機のひとつでした。 当然先方もビジネスですからビジネスライクに私に接する事自体は間違いでは無いのですが、とはいえ人相手の商売なので、そういう部分は重く見ました。
  
 実は今回の家の建て替えでは、金融機関に限らず全て「人そのもの」を観察して決めたところがあります。 要するに信用ならん人には関わってほしくない。
 それは金融機関だけでは無く、久米さんもしかり、工務店もまたしかり。
 ですから条件だけでは無く 「信用出来るかどうか」 が大事でした。
 慣れ合いでは無くて本気でケンカできるかどうか、打てば響くかどうか、ってところでしょうか。

 
 さて、以前、工務店を選んだ理由は何か、ということを書きました。
 次はその話をしましょう。
  
 久米さん経由で工務店の方に見積を依頼し、その見積の内容説明を、久米さん同席の元で初めて集まって行う機会がありました。
 工務店の方は社長と担当者のお二人が同席されました。
  
 この席で見積書を提示してもらい説明を受けたのですが、私がその見積書をさらーっと流し読みした際、その分厚い見積書の一部のページのヘッダ部分に、“xx邸新築工事”という文字が。 でもこのxx邸は私の名前ではなかった。
 「xx邸って私の名前じゃないんですけど。」 突っ込むと、工務店の社長と担当者のお二人が「!!」という顔。 「ど、どういうことや!」
 「ちょ、ちょっと待って下さい!」と二人で相談が始まりました。
 私と家内と久米さんは静観。 私としては、見積書自体が間違ってるのではと言っているのでは無くて、修正漏れであろうけれど何も突っ込まないのもどうかと思い、軽い気持ちで質問しただけだったのですが。
  
 私は仕事の関係上ワープロはよく使いますし、ヘッダ部の間違いなんてのは普通によくある間違い(昔の別の文書をコピーして中身を書き換える際に修正が漏れやすいところ)という事は経験上理解できたので、そういう些細なところは実はどうでも良かったんですが、工務店の方々は「見積書の信頼性が!」という思いがあったんでしょう、二人で真剣に調べ始めました。
   
 この様子を見たとき 「あぁ、この人たち、ええ人やわ」 と。
  
 見積書の記載内容の重要性も認識してるし、きっと細かい見積明細の内容を質問されても理路整然と答えられるんやろうな、どんぶりじゃない見積を明細きちんと積み上げて数字出したんやろな、と。
 私も仕事柄、見積にはとても神経を使っていることもあり、このあたりの認識・価値観には近いものがあるのかも知れません。
 OUTPUTをきちんと出すかどうか、というのはもちろん大事な事なんですが、仕事全般に対して、その姿勢はいいんやろうな、と。
  
 人は自分にとって不都合な予期せぬ出来事と遭遇した瞬間に初めて本来の姿を現すもので、その際の対処により本当の評価が決まる、と私は思っています。
 他にも、予算内に納める事を真剣に考えてくれる、久米さんが推奨してくれる、人見知りの激しい我が家のギャオス(♀1歳)が、なぜか社長には笑顔で接する、建築ではいい素材を使ってくれる予定、など、この工務店をチョイスした理由はいくつもあったのですが、一番大きな要素はここでした。 誠実さが無い人は認められんのです。
  
   
 今考えると 「それって殆ど直感ちゃうんかい」 って気がしなくも無いですが、まぁ今のところ自分が納得できてるのでヨシとします。
   
 ・・・前フリが長くなってしまったので、契約に入る話はまた次回。

 

久米から一言… 

 

どんなに会社の規模が大きくても、結局は担当者の人となりで仕事が動いていく…

ということを思うと、Tさんの判断基準は正しいですね。

 

この金融機関さんは本当によいですね。私は初めてお話を伺いましたが、非常によく融資物件について調査されており、また、設計事務所特有のゆっくりスケジュールにも理解をいただけ、今後も是非お付き合いしたいと思うところでした。

 

さて、今回ご一緒する工務店さんには、社長のまっすぐな、木造住宅に対する熱い思いで、助けていただいております。 私もこの工務店さんは信頼できるので、お勧めしました。

 

 

 独立すぐの頃からしばらくは、某ゼネコンさんや某工務店さんの現場で色々ありました。

 一番困るのは、ウソをつかれることです。

   「ここを直してください」  「これは○○しておいてください」

という私からの依頼に対し、「はい」と返事をしてもらったのに、必ずといっていいほど不実行。そういうことが続くと、全てを信じられなくなって、大変に無駄なエネルギーを費やしました。

 

仕事が下手だったり、乱雑だったり、勿論それも困るのですが、それは改善してもらうことは可能ですし、それに人には間違いは必ずあるもの。(久米にも沢山あります)

工事現場も人の仕事ですから、それらのことは慎重に監理して問題発生をできるだけ少なくし、もし何かあれば手直しすればすむことなのですが、相手が信頼できないというのは、もうどうしようもありません。

 

だから、この頃は私も、Tさんと同じような考えで仕事をしています。

Tさんのお家は、もうすぐ上棟です!

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)