家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.5 「設計その1;基本計画が決まるまで苦闘の連続でした」

2004.08.18

 

  ‘03年7月12日 いよいよ設計が始まりました。私たちが希望する設計条件、土地の形状、周辺の状況、関係法規などを考慮しながら、久米さんが図面を書き、それを基に意見交換するという作業の繰り返しです。久米さんの建築設計工場 西宮事務所での打ち合わせですが、検討事項を持ち帰ったりすることも多く、EメールやFAXも使いました。10日から2週間に一回の割合で、一回当たり4時間位の打ち合わせとなりました。久米さんは実にきっちりしていて、毎回、合意事項を後で議事録としてEメールで送って下さいました。紙面の関係で設計の過程を細かく書くのは無理ですので、特徴的な事柄のみご紹介します。私たちの希望条件については、別紙の「設計の特記事項」に示すとおりですのでご参照下さい。

    

① 光と風が通り抜けるホール

 これは久米さんからの提案で、今回の我が家の設計で最大の特徴と言えるものです。

 西側の玄関から、東側の庭まで家の中央を直線で貫く、幅2.4m、長さ8.8mの空間(オープンスタイルの2階への階段部分を含む)です。これは家の中でありながら外=自然を感じられる空間とし、このスペースを「ホール」と呼びます。このホールを挟んで、1階、2階とも諸室を配置します。2階の廊下は、隙間のある「すのこ」状の板張りで言わば半吹き抜けです。さらに屋根天井には天窓(トップライト)を採用し、風と光が1階・2階の窓、2階の半吹き抜け、天窓の間を行き来する風通しが良くて明るく心地よい空間を演出するという案です。(通常、通路として必要な幅の1.4倍ものスペースを取っています。)

 書店で手にする多くの住宅雑誌には家の間取りを考える上の注意点として、「廊下、通路は極力減らせ、居間から直接個室へ」と書かれています。しかし、久米さんは、“生活の中の無駄・・・遊びの部分”が暮らしを豊かにするのでは?と言われ、そして思い切って通路部分を広くすることを提案されたのです。現代の都会のけして広くない土地に家をプランする時、ホール案は、あえて言えば邪道ではないかと思われます。私たちの頭の中には、4人家族の暮らす、ごくありふれた間取り、つまり

F ・・・玄関、台所、リビングダイニング、書斎、家事室、サニタリー

F ・・・主寝室、個室が2部屋、トイレ

しか無かったので、このホール案は、「目からうろこ」の提案で、これが建築家と計画する場合の醍醐味かと気づきました。この案は大変素敵ですが、床面積が増え、庭が狭くなるので随分迷いました。しかし、切り捨ててしまうにはあまりに魅力的で、結局採用と決断しました。その後も、良かったのだろうかと、気持ちは長いこと揺れました。今は、ホールを暮らしの中でいかに活用するか、単に通路としてしまわずに、大き目のグリーンを置こうか、好きな絵を飾って眺めようか、あるいは昔の縁側のように庭から訪ねてきた隣人とおしゃべりを楽しむ場にしようか、と夢をふくらませています。

     

② 切妻屋根へのこだわり

 私は切妻屋根が大好きで、初めから屋根は切妻と決めていました。そのため、久米さんは設計に苦労されたと思います。きつい北側斜線のため屋根や軒の高さが制限されるからです。しかし、設計の工夫で、登り梁や天井あらわし(むきだしになっていること)が採用され、かえってデザイン的に魅力的な設計になったと思います。

    

③ 輻射暖房の採用

 暖房設備は、温風暖房ではなく輻射暖房、しかも今流行の床暖房ではなくパネルヒーターを採用しました。これにはイニシアルコストが高いこと、実際に採用した家庭が少なく実例を身近に見ることが出来ないため、いささか迷いましたが、家の一部の部屋のみの暖房ではなく家全体を一様に暖めること、下からでなく横からの輻射であること、デザイン性も期待できること等からパネルヒーターに踏み切りました。

高断熱性能の確保自然素材で調湿機能を持つウール断熱材を壁、床下、天井にたっぷり充填すること、窓はペアガラスと樹脂アルミ混合サッシを採用することにより、「次世代省エネ基準」の北海道・札幌クラスをもクリアする、高い断熱性能となりました。

    

⑤ 自然素材の内装

 床材は無垢の杉板、壁は調湿機能を持つ薩摩中霧島壁塗り、柱はヒノキ、梁は強度のある米マツのあらわしとし、木や壁の呼吸する機能を大切にして石油化学製品の使用を極力おさえた設計にしました。

 

⑥ 構造計算と部屋の使い勝手との両立に苦戦

 久米さんは設計の進行に合わせて、構造専門の建築士と何回も相談しながら設計を進めておられましたが、平面図のプランがある程度できた段階で構造家が詳細計算した結果、当初のプランでは壁が足りないことが分かり、1階の壁や柱を増やさなければならなくなりました。(この詳細計算は許容応力度設計法というもので建築基準法上、木造2階建住宅には必要ないのですがより正確な設計にするため採用していただいたものです。)

 地震等の大きな力が家にかかった時、耐久性の高い家にするには、屋根や2階を支える1階の壁や柱は、家全体にバランスよく配置されることが必要になります。そのため、1階のあちこちに壁や柱を増やしたので、部屋としての使い勝手が大変悪くなって頭を抱える事態になってしまいました。

 久米さんは、それならばと全く新しいプランを提示して下さいましたが、これには私たちは本当にびっくりしました。これは、敷地の中央に中庭をとったコの字型の家です。結局、両方の案を検討した結果、当初のホールのある案を部屋配置を変更するなどの修整を加えることで解決し、中庭案は建築費や温熱環境の面を考慮して採用しないことになりました。 私たちは今住んでいる家と同じように、リビングとダイニングを一室にするリビングダイニングしか頭になかったのですが、広い部屋は壁や柱が少なくなってしまうので、耐震性を優先して、リビングとダイニングを別々の部屋にすることにしました。これでなんとか構造面もクリアできました。この時期は、随分何度も図面を睨んであれこれ思案し悩みましたが、今となってはいい思い出となっています。

 

 こうして設計の基本計画がようやく1128日に終了しました。7月12日から4ケ月半を費やしました。この間久米事務所での打ち合わせが13回、メールが送受信あわせて113回、FAX10数回に及びました。私たちは家族の好みや癖、日常の些細なことも出来るだけたくさんお話したつもりです。けれども、あまりに日常的過ぎて伝えるべきことと気づいていないようなことが多々あり、そのため、久米さんからの提案には時々思いがけないことが出てきて、私たちの説明不足を痛感しました。一回の打ち合わせは休み無しの約4時間、正直に言って疲れました。友人からは「楽しいでしょうね。」と言われましたが、これで家は決まってしまうのですから、とても楽しむどころの余裕はありませんでした。

 

久米から一言… 

 

1階のホールは中庭の代わりで提案したものです。

(Aさんの書かれているように、本物の中庭案は全く別の内容で後日参考に出しましたが、

断熱性能について考えるとき、中庭のあるプランは窓がおおいだけに決して優秀とは言えませんから、Aさんの場合はこれでよかったと思います。)

このホールは各部屋の中の空気が、自然にホールを通ってトップライト等から換気される機能をもたせながら、また、ホールと部屋とのしきりの戸を開け放つことによって、別々に分けた、食事室と居間を必要に応じて、ひとつながりの大きな部屋にまとめてしまう機能も持っています。

 

構造は、2階建てではありますが、許容応力度計算にて決定しましたので、耐力壁の配置に少し苦労しました。

 

それにしても、113回もメールしたのでしょうか…(!)

打ち合わせはいつもどうしてもあれこれとお話するので長引くのですが、やっぱり休憩をはさまないといけませんね。(反省)   Aさん、申しわけありませんでした…

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)