家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.3 「家づくりの機運高まる」

2004.06.16

 

 家づくりを決意し、具体的な行動のGOサインを出すには、私は少なくとも4つの要件について方針を立てることが必要だと思います。すなわち、「何処に住みたいのか」、「どんな家にしたいのか」、「資金計画は大丈夫か」、「誰に依頼するのか」です。それでは私のケースの概略をご紹介しましょう。

 

1. 「何処に住みたいのか」・・・どんな土地を何処に求めるのか

 土地の取得については安易に考えてはいけないと思います。土地は一生ものです。家に対して土地の持つ影響度は非常に大きく、土地を買い換えることは大変な労力と費用がかかります。また、土地は単に予算の制限で決めるのではなく、そこでの自分達の生活と周辺の環境や雰囲気がマッチするかどうかが重要です。イギリス人は家を選ぶ際(向こうは中古住宅の売買が多い)、街並みの持つ雰囲気が自分の感性と合うかどうかを最優先にするそうです。また田舎暮らしも考えてみました。私は自然派で海、山、川、温泉のある所がいいなあと言い、家内は寒がりなのに何故か北海道がいいと言っていました。ところが、震災後、他の地に住む息子や娘の所に身を寄せたのに「淋しさに耐えかねて」と言って、元の地に戻ってきた人を3例も見ました。このことから、歳をとったら永年住み慣れた土地、人の輪のある所でないと暮らせないのではないかと言う考えに至りました。

  以上から、私は家族の活動エリアの中心から移動時間が30分以内の範囲内で土地を探すこととしました。また、用途地域としては都市計画法上の規制の厳しい低層住居専用地域であることも条件のひとつに加えました。土地の広さについては建蔽率や容積率の規制値から、私の望む家を建てるには土地形状にもよりますが約50坪前後、最低でも45坪は必要と判断しました。勿論、地すべりや軟弱地盤のような災害の起こる恐れのあるところは避けなければなりません。

  

2. 「どんな家にしたいのか」・・・新しい家に何を望むのか

 家を造っては壊す時代は過ぎ去りました。環境問題・高齢化社会・健康志向への対応、社会資産の高寿命化の必要性を考えると家の寿命は現在の30年から70年とか100年の永いスパンで考えていくべきだと思います。

 

 私の新しい家に対する希望を整理しますと、

  阪神大震災クラスの大地震にもビクともしない耐震性を有すること。そして当然のことですが台風や火事に強い構造であること。

  快適で健康的な温熱環境であること。つまり風通しが良く、冬暖かく、夏涼しい、しかも自然の採光や通風を最大限図ること。

  建築材料は出来るだけ化学建材でなく、自然素材を使うこと。

  高齢者に配慮した家であること。

  将来二世帯が居住することになっても対応できること。

  外観は素朴にして単純明快、バランスがとれていること。屋根は切妻が良い。

   外部、内部とも和風をできるだけ取り入れること。

  基礎をがっちり造ること。不同沈下を起こさないこと。

  泥棒の侵入を許さないよう工夫をこらすこと。その一つとして、家の中からも外からも圧迫感を与えないような低い塀にすること。

  適切なメンテナンスにより70年は住める家であること。

 この①~⑨を基本条件として掲げていくことにしました。

  

3. 資金計画に無理がないか

 お金の話をするのは厭らしくなるからあまり好きではありませんしフトコロ事情はヒト様々ですが、資金計画は大事ですので綿密に検討しなければなりません。

 お金を精一杯かけて家はできたものの、後は爪に火を灯すような生活では味気ないし、無理なローンを組んで後で返済できなくなり、折角作った家を手放すことにでもなれば悲劇です。また、将来の予期せぬアクシデント(病気、怪我など)による思わぬ出費も考えておかなければなりません。あれこれ検討した結果、幸いにしてなんとか資金計画の目処を立てることができました。これにより家づくり計画は大きく前進することになりました。

 

4. 家づくりを誰に頼むのか

 現実的には3つの選択肢があると思います。「ハウスメーカー」、「地場の工務店」、「建築家」です。多くの情報を持たない私にとってこれは難しい選択でした。本を読んでも雑誌を見ても、住宅展示場や現場見学会へ見に行っても、ハウスメーカーや工務店は誰も彼も自分達の都合の良いことしか言いません。売らんかな、営業優先の姿勢が強すぎて思わず腰が引けてしまいます。ひとたび水を向けようものなら、そこは商売ですから必死の営業をかけて来ます。そのこと自体は無理のないことです。

 

 ところで、私にとって最も大事なことは「本当に建築主の立場に立って設計してくれる人は誰か」そして「品質を守った工事を確実にやってもらうにはどうしたら良いか」でした。いろいろ迷った挙句、結局、私は「建築家」に依頼することに決めました。「建築主に対して本当に親身になってくれる建築家なら、私たちの気持ちを理解した上で色々なアイデアを出してくれるだろうし、素人に分かりやすく説明してくれるだろう、工事監理でも施工業者に妥協することなく要所をしっかり押さえてくれるだろう」と考えるようになりました。また、建築家に依頼すると設計監理料が別途必要になり割高につくということがよく言われますが、設計のキメの細かさ・品質の高さ、コスト判定能力、工事監理の公平性と指導性などの長所を考えれば、一概に割高につくとは言えないと思います。

 

 以上のように、4つの基本方針が決まればあとは行動あるのみです。

  しかし、このあと事はうまく進むのか、不安で一杯でした。 2003年3月、春のことでした。

 

久米から一言… 


こうやって、施主さんの家つくり記録を読むと、私の設計は、ちゃんとお気持ちを叶えてあげられたのだろうかと振り返ることしきり……

 

今、工事監理の真っ最中ですが、初心に返って身が引き締まる思いです。

(家つくり記録、書いてもらって良かったなぁ…! 頑張って仕事しなくちゃ。)

 

さて、

数年前から、健康住宅とか環境共生住宅とか自然素材の家とか、いろんなキーワードで住宅が語られるようになってきました。

建築家紹介のサイトに登録しようとすると、得意な分野などを上記のようなジャンルから選択するようにいわれることも良くあります。

でも、私は、住宅をそんな簡単にグループ分けして選ぶのはナンセンスのように感じて、ジャンル選択にはいつも抵抗があります。 (とりあえず、仕方ないから選びますが…)

 

何かひとつの設備や素材を選んだからといって、そんなことくらいで健康だとかエコだとかいえるほど、建物は単純ではありません。また、建築主の好みや予算、生活スタイルによって、選べることとそうでないこともあるなかで、本当は誰だって「良いとこ取り」はしたいはず。(笑) 要はバランスが大切ということで、そうやって考えると、住宅のジャンル分けなんてできないはずなのですが…。

 

Aさんの家は、バランスもさることながら、各要素のレベルも高いものとなったと思っています。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)