家づくり記録 Nさん

NO.6

2007.02.01

8.やっと着工

 工事契約が無事結ばれ、すぐ工事が始まるのかと思いきや、実はなかなか始まりませんでした。

 うちの土地は地盤があまりよくないため、杭を打つことになっていたのですが、着工直前にその杭が設計と違う仕様になっていることが判明。久米さんやT工務店の監督さんがストップをかけたのにもかかわらず、杭の業者が搬入を強行したとのこと。 結局T工務店さんは杭の施工業者を替えて一から発注されることになり、さらに半月ほどの遅れが出ました。やっと杭の工事が始まったのは10月も下旬でした。

 この遅れだけでも十分な痛手なのですが、さらに問題が発生しました。以前の見積のときから相談していて引き続きお願いするつもりでいた、材木業者さんがここにきて、見積もりにかなりの見落としがあり、金額アップが避けられないうえに、設計図どおりの加工ができないというのです。なかなか詳しい見積もりが来ないのを不審に思い始めたところでした。いろいろと研究熱心な方で、確認申請のときもお手数をおかけしていたので、とても残念ではあったのですが、またまた急遽、久米さんのお付き合いのある材木会社を紹介していただき、大急ぎで見積もり、なんとか工事のほうに遅れを出すことなく、お願いすることができました。

 11月の日曜日、材木会社の社長のSさんの案内で、久米さん、構造の瀧川さん、私たち夫婦に末っ子も連れて和歌山にあるプレカットの工場まで材木を確認に出かけました。S社長の出身地である九州の小国杉が使われるそうです。節のないとてもきれいな柱や、太くてりっぱな梁など、びっくりするほどよい材木が用意されていました。気分の沈むことが続いていただけに、すがすがしい木の香りに包まれ、社長の心意気にあふれたすばらしい材木に触れ、家作りの楽しさを改めて感じることができました。(久米さんのコメントで明らかになることと思いますが、なんとこのとき久米さんは車椅子姿!でした。真剣にこの現場になにかあるのではと思い、もう一度神主さんを呼ぶかどうか悩みました)

 さて一方で基礎のほうも着々と進んでいました。というか、久米さんも経験したことのないほど、配筋の作業の方たちは、丁寧で慎重な仕事ぶり。仕上がりは申し分のないものでしたが、時間のほうはかなりかかってしまいました。なんとか11月中に、と願っていた上棟は、年内ぎりぎりの1223日に行われることになりました。 

 共働きの暇なしで、なかなか昼間の現場には顔を出せないのですが、上棟の前週の土曜日に顔を出すと、基礎の型枠をはずしているところでした。週明けには埋め戻します、との言葉に、上棟というのは屋根までできるのよね、間に合うのかしら、と少々不安でした。当日は祝日ということもあり、儀式だけというお話だったので、数日でそこまで工事が進むのか半信半疑でした。

 

 当日は年の暮れとは思えない、穏やかなお天気。数日振りに訪れた現場には、見事に立ち上がった家が姿を見せていました。まさにミラクル!図面ではなんども確認していたことでも、実際に立体になってみると、全然違います。まず、でかい!(いえもちろん、想像と比べてという意味で、実際はささやかな家です)。高さが思った以上でした。確認申請時に一時、3階建てになる、と言われたのも無理ないかな、と思ったほどです。まだ柱と梁だけですが、家を建てている、という実感がわいてきます。昔から、家を建てる中この工程でお祝いをするのは、そんな気持ちから自然に起こってきたことではないかな、と感じました。

 式には、久米さんに構造の瀧川さん、T工務店の皆さん、材木のS社の皆さん、PS工業さんに、私たち家族、私の実家の両親、が参列しました。T社長が式を進行してくださり、祭壇に向かってそれぞれが拍手を打ってお参りした後、(皆さん車なので)形だけの乾杯。S社長が上棟の祝い歌を見事なのどで披露してくださり、晴れがましい気持ちでいっぱいになりました。その後は、お茶とお菓子で歓談。子供たちはあちこちのぞいてまわり、私たちも2階に上がらせてもらって、あのプレカット工場で見たりっぱな材木が使われているのをうれしく眺めました。時間にして1時間もない式でしたが、家作りのよい思い出になりました。すでにこれでもか、というほどいろいろなことが起こった1年でした。これがよい締めくくりとなり、来年は順調に工事が進んで、念願の我が家に速やかに入居できますように。

 

久米から一言… 

 

杭のことはともかく、材木の会社変更は本来ならば請け負った工務店さんの内部で行われることなので、施主さんにご心配をかけることもないはずなのですが、不本意のことながら、行きがかり上、材木を支給する形になっていたので、余計にご心配をお掛けしてしまいました。でも、Nさんはじめ皆さんのおかげで、本当に素晴らしい上棟式でした。

 

T工務店さんはとても良い工務店さんですし、監督さんもとてもいい監督さん。

S社さんの材木も本当に良いものをそろえていただき、また、プレカット工場のほうには

細部にわたって配慮した作業を行ってもらい、やはりここでお願いしてよかったとつくづく感謝しています。 きっとこれからはスムーズに進むはず。

 

ところで、

Nさんが以前の材木やさんに確認申請のときに手数をかけた、といわれているのは、柱と土台の接合部のことです。昔、金物を使わないで家を建てていた頃、普通に柱と梁や土台をつなぐのに使われていたのは、「込み栓」という方法でした。これは、柱の先を細くして梁や土台の中に差し込み、その後、その差し込んだ部分を梁や土台ごと丸型や角型の木栓で貫くことによって固定する、というやり方です。

 

建築基準法によって耐震金物によって柱と梁や土台を固定しなければならないと今は規定されていますが、ごく最近、材木会社さんたちが一生懸命頑張って、大学と一緒に破壊実験を行い、古来からの込み栓でも、金物に匹敵する耐力があることを証明されたのです。

実験結果は日本木材技術センターで認められ、その実験方法は木造の構造計算の指針にうたわれている正式なものなので、今回N邸では、湿気を帯びやすい土台まわりのみ、この込み栓による固定方法を採用しました。(込栓は、全ての金物に代わるものではありませんから、一部は金物も使っています。)

確認申請ではそれらの実験結果などの書類をすべて提出しなくてはならなかったので、

当時相談していた、その材木会社の方に色々をお手数をお掛けしたということです。

役所では、「どうしてわざわざこんな面倒な手続きをとってまで、金物ではなく込み栓を使うのか?」と聞かれましたが…、

金物より木材同士の接合のほうが良いのはわかっているし、それに、折角その良さを証明しようと頑張っているひとたちの労に報いるためにも、きちんと確認申請で手続きをとって正式に採用した実績を挙げることが必要だと考えたからです。

 

それから…

私がプレカット工場で車椅子だったのは…庭に犬が掘った穴に落ちて左足首を骨折し(なんともなさけない!)、ギブス状態だったからです。

足を怪我して初めて、体が不自由とはどういうことか、身をもって感じました。

私にとってはハプニングでしたが良い経験でした。この現場に何かあるなんてとんでもない!!! 皆さん、家庭内事故には気をつけましょう。 怪我の原因のNO.1です!

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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